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夜勤 給油係

タクシー専用ガススタンド(後編)

最初の1ヶ月を無遅刻無欠勤で過ごした私は、仕事にもマァマァ慣れてきた。
私とほぼ同じ時期に、同じ勤務時間帯で入社した同僚が2人いた。しかし、二人共に1ヶ月も続かなかった。
特にその内の1人は、3日程来た後に辞めてしまった。もう一人は当日欠勤が多くて、解雇されていた。
当日欠勤といっても、キチンと連絡した上での欠勤だった。なのに「クビ」とは...
「この会社、もしかしたら ”ブラック?” 」と、思わずにはいられなかった。
この仕事で思い出に残っている出来事が二つある。

① ある運転士さんが給油に来ると、いつもジュースでも買って下さいと千円札を1枚くださる方がいた。
その晩の夜勤メンバーで、一人あたり2本ずつ飲み物を買ってご馳走になったものだ。
その運転士さんは、長年そのスタンドのお得意様だったようだ。

② ある晩、乗せたお客様に車内でゲロを吐かれた運転士さんが給油に入って来た。
確か土曜日の晩で、日付がまだ変わっていないタイミングであった。
運転士さんの話によると、その晩はもう”営業” 出来ないらしい。なぜならば、車内に汚物のニオイが残ってしまい、次のお客様を乗せれる状態ではないとのこと。
土曜日の深夜は、稼ぎ時。それをまだ午前0時を過ぎる前に”強制終了”させられたら、たまったものじゃありません。
タクシーの運転士さんは九州弁で、「東京という処は、人に恩を仇で返すとことーっ!!」と半泣き状態でした。
そして、タクシーの窓ガラスにも、汚物の”破片”が飛び散っていました。
タクシーの運転士さんには申し訳ないですが、この時は笑いを堪えるのに必死でした(笑)。
給油後タクシー運転士さんは、手洗いで洗車をしていました。
そのスタンドは洗車機利用は有料。セルフで手洗いをする場合は無料でした。(水道や洗車道具を自由に使えます)
このサービスは運転士さんにとっては、ありがたい制度だったみたいです。

私は6月中旬に、この仕事を辞めました。梅雨に入り雨天時の給油の際に濡れるから。
スタンドは一般的に給油する場所は、屋根が覆う造りになってはいます。
しかし、お客様を誘導する際には、その屋根の下から出て入ってくる車をお迎えしなくてはならない。
その時に、しっかり雨にあたります。私はこれには耐えれませんでした。
「なんで雨の中、傘もささずに仕事すんのよ!?」雨の日には、いつもこの様に腹の中で文句を言ってました(笑)。
この年の春先は雨が多くて、記録的に気温が低かったのを覚えています。
お客様の数が、例年の同じ時期に比べると、3割~4割減だとベテランの給油スタッフから、毎晩の様に聞いてました。私にとってお客様が少ないのは、好都合でした。時給制なので暇でも収入には影響が無いのですから。

ただ待っている間は辛かった。そのスタンドは待機の際は、給油機のソバでほぼ直立不動で待っていなくてはならないので。特にその年の3月の吐く息が白くなる小雨の晩は、手がかじかむ程。
イイ歳した男達が三人それぞれ少しの距離をおいて、ガン首並べて立ってるのもどこか滑稽にすら思えてきました。
私はこの仕事を辞める直前に、危険物取扱免許乙種四類を取得しました。
ネットで調べたところ、深夜のセルフスタンドのバイトがメチャクチャラクで、お勧めの書き込みを見たから。
その仕事に就くには、「乙四」免許が必須とのことでしたから、10数年振りかに必死で勉強したのを今でも覚えています。

辞めた後に、何ヶ所か深夜セルフガソリンスタンド監視員の仕事に応募しました。
しかし、未だに就業したことはありません。採用されたスタンドが2ヶ所程有りましたが、条件が合わずに辞退。(交通費が出ないとか、週に1回しか勤務させてもらえない。或いは夜勤だけのシフトだけでなく、日勤もフルタイムで働くことが条件だとか。)
自分にとって、あまり都合の良いガソリンスタンドは、ありませんでした。

就業期間は約3ヶ月でしたが、乙四免許も取れたので自分としては、実りのあった職場だったと思っています。


作成者: つ―ぽん

40歳を目前に、非正規雇用労働者として生きていくことを決意した男。
体験した職業の数は、50を超える。(正社員と非正規雇用を含め)
現在は、アルバイトでWワークをしながら、生計を立てています。
妻と二人で神奈川県の片隅に、ひっそりと暮らすアラ漢(60近いオトコ)です。